静岡地方裁判所浜松支部 昭和41年(ワ)301号 判決 1968年1月31日
原告
須貝悠美
ほか一名
被告
株式会社カク一材木店
ほか一名
主文
一、被告株式会社カク一材木店は、原告須貝悠美に対し金五六、二三五円及びこれに対する昭和四一年一二月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告船山登茂子に対し金九五四、四九六円及びこれに対する昭和四二年五月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、被告石川藤雄は、原告須貝悠美に対し金五三、七三五円及びこれに対する昭和四一年一二月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員、原告船山登茂子に対し、金九五一、一四六円及びこれに対する昭和四二年五月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。
二、原告らのその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四、この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。
事実
第一、申立
一、原告らの申立
「被告らは連帯して原告須貝悠美に対し金二六九、六一五円及びこれに対する昭和四一年一二月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告船山登茂子に対し金二、六九一、〇〇九円及びこれに対する昭和四二年五月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決を求める。
二、被告らの申立
「原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。」
との判決を求める。
第二、主張
一、原告らの請求原因
(一) 原告らは、浜松市佐藤町所在芸妓置屋「新江崎」に席をおく芸妓である。
(二) 昭和四一年四月一〇日、被告株式会社カク一材木店(以下被告会社と略称する)の自動車運転手である訴外村越は、右「新江崎」において被告石川藤雄(以下被告石川と称する)所有の普通乗用自動車(以下被告車と称する)に原告らを乗せ、同車を運転して被告会社主催の慰安会々場である弁天島共楽荘に向つたが、その途中静岡県浜名郡新居町競艇場附近国道にさしかかつた際、先行車の追越を企て、対向車の有無を確めず、漫然と道路中心線を越え道路右側部分に進出した過失により、折から対向進行してきた貨物自動車に被告車を衝突させ(以下本件事故と称する)、よつて原告須貝悠美(以下原告須貝と称する)に対し顔面挫傷、右手挫傷(第五中手骨々折)の、原告船山登茂子(以下原告船山と称する)に対し、脳挫傷、顔面頭部挫創、意識障害の各傷害を与えた。右傷害の結果、原告須貝は九日間入院し、退院後五月一二日まで通院治療を受け五〇日間の休業を余儀なくされ、また原告船山に至つては現在に至るもなお完治していない。
(三) 責任原因
1 被告会社の使用者責任
本件事故は、当時被告会社に自動車運転手として雇傭されていた訴外村越が被告会社の命を受け、原告らを被告車に乗せ、同車を運転して前記慰安会々場に赴く途中前記過失を犯したため惹起したものであるから、被告会社の事業の執行中に発生したものというべく、被告会社は、右村越をその事業のために使用する者として民法七一五条により、原告らに対し、後記損害を賠償する責任がある。
2 被告石川の自動車損害賠償保障法三条責任
被告石川は、被告会社の代表取締役であり、かつ被告車を所有しているものであるが、本件事故当時同人は被告車を被告会社の業務執行のために使用することを容認していた。しかして、本件事故が右村越において被告会社の業務の執行中に惹起したものであることは、前述のとおりであり、被告石川において容認していたものであるから、被告石川は、被告車を自己のために運行の用に供する者というべきであり、自動車損害賠償保障法三条により、原告らに対し後記損害を賠償する責任がある。
(四) 本件事故により原告らが蒙つた損害は次のとおりである。
Ⅰ 原告須貝が蒙つた損害
(1) 休業補償費 金九〇、〇〇〇円
原告須貝の一ケ月の平均収入は金五四、四〇〇円であるところ、本件事故による前記負傷のため五〇日間休業したので、その五〇日分。
(2) 通院タクシー代 金一五、八八〇円
原告須貝が通院のため費したタクシー代金の総額
(3) 衣料シミヌキ 金五、〇〇〇円
(4) 慰藉料 金二〇〇、〇〇〇円
以上合計 金三一〇、八八〇円
ところで、原告須貝は、自動車保険により金七二、八五七円の保険金を受けたが、そのうち金三一、五九二円は湖西病院への支払に充てたため、その差額である金四一、二六五円を右合計額より差引くべく結局同人にはその差引額である金二六九、六一五円の支払いを受くべき損害が現存することとなる。
Ⅱ 原告船山が蒙つた損害
(1) 休業補償費 金八三九、八〇〇円
原告船山の一ケ月の平均収入は金四四、二〇〇円であるところ、本件事故による前記負傷のため休業した昭和四一年四月一一日より同四二年一一月一一日までの一九ケ月分。
(2)医療費 金八五、四〇〇円
詳細は別紙医療費明細書のとおり
なお、被告石川は原告船山の医療費として金二四九、八二四円を支払つているが、右請求分はそれ以外に原告船山が支払つた分である。
(3) 雑費 金五三、五〇九円
詳細は別紙雑費明細書のとおり
(4) 附添料 金五、六〇〇円
一日金七〇〇円として、昭和四一年四月一一日より同年四月一八日までの八日分。
(5) 衣類シミヌキ 金六、七〇〇円
(6) 慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円
以上合計 金二、九九一、〇〇九円
ところで、原告船山は、自動車保険金として金三〇〇、〇〇〇円の支払いを受けたので、これを右合計額より差引き、結局その差引額である金二、六九一、〇〇九円の損害がなお現存することになる。
(五)よつて、被告らに対し、原告須貝は、金二六九、六一五円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四一年一二月一六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告船山は金二、六九一、〇〇九円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四二年五月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めるため、本訴に及ぶ。
二、原告らの請求原因に対する被告らの答弁
(一)請求原因(一)の事実は認める。
(二)同(二)の事実のうち、原告ら主張の日時場所において、被告会社主催の慰安会が催されたこと、同日訴外村越が被告車に原告らを乗せ、原告ら主張の場所を運転進行中、本件事故が発生したことは認める。
本件事故発生についての右村越の過失の有無並びに本件事故により、原告らが受けた傷害の部位、程度、その治療経過及び現在の健康状態はいずれも不知。
(三)同(三)の事実のうち
(1)本件事故当時、訴外村越が被告会社に自動車運転手として雇傭されていたこと、並びに被告石川が被告会社の代表取締役であり、かつ被告車の所有者であることは認める。
(2)本件事故が、右村越において、被告会社の事業の執行中に発生したとの点は否認する。
原告ら主張の日、同場所において被告会社が従業員及びその家族を慰安するため慰安会を開催し、同日午前一一時頃より宴会を催したところ、芸妓を呼ぶこととなり、前記芸妓置屋「新江崎」にその旨連絡したが、原告らが到着した頃には既に宴会は終了し、出席した従業員らは潮干狩り又は競艇見物のため退席してしまつていた。そして被告石川も残つていた従業員らに宴会の終了を告げ、共楽荘の係員に酒の提供を拒つたうえ退席した。その結果宴会場には前記村越、訴外竹内善次郎及び原告ら四名が残つたので、原告らがドライブしようと要求し、村越が被告車を運転し、右四名にてドライブ中、本件事故が発生したものである。従つて本件事故は、村越において被告会社の事業の執行中に発生したものではない。
(四)同(四)の事実のうち、自動車保険により原告須貝において金四一、二六五円の、原告船山において金三〇〇、〇〇〇円の各保険金を受領したことは認める。その余は不知
三、被告らの抗弁
仮りに、被告らが、原告らに対し損害賠償の責任を負うとしても原告らは前記二の(三)記載の宴席において、前記村越及び同竹内が飲酒しているのを熟知していたのに、右両名に対し、被告車に乗り、ドライブをしようと申出て、本件事故を招いたものであるから、右は原告らの過失と言うべきであり、右過失は損害賠償額の算定につき斟酌されるべきである。
第三、証拠〔略〕
理由
一、被告会社の責任
(一)原告ら主張の日に、訴外村越が被告車に原告らを乗せ、原告ら主張の場所を運転進行中、対向進行してきた貨物自動車に衝突したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、右事故の結果、原告須貝は顔面挫傷、右手挫傷(第五中手骨骨折)の、原告船山は脳挫傷、顔面頭部挫創、意識障害の各傷害を負つたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(二)そこで、右事故の発生につき、訴外村越の過失の存否について検討する。
〔証拠略〕によれば、訴外村越は原告ら主張の日に、被告会社主催の宴席において飲酒した後、被告車に原告らを乗せ、原告ら主張の場所を運転西進中、先行している貨物自動車を追い越そうと企て、酒の酔いも手伝い対向車の有無を確認することなく、漫然と道路中心線右側部分に被告車を進出させたため、対向進行してきた大型貨物自動車に衝突したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。ところで、自動車運転者としては、本件事故発生地点のような交通頻繁な国道上において、(交通頻繁であることは当裁判所に顕著な事実である。)道路中心線右側部分に進出して先行車を追越そうとする場合、対向車が自車に接近進行してくることは充分予想されるところであるから、対向車の有無を確認し、対向車ある時は、先行車の速度並びに自車と対向車との距離を考慮のうえ、対向車に接近する前に先行車を追い越し再び道路中心線左側部分に戻り得るか否かを判断し、もし先行車を追い越しなお対向車と充分な間隔をおくことが難しいと判断したならば、当該対向車の通過をまつて先行車を追い越しもつて危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるというべきところ、前記認定事実によれば、訴外村越は酒の酔いにまかせ対向車の有無を確認することなく漫然と被告車を道路中心線右側部分に進出させ、先行車の追越を試みたため本件事故を発生させたものであるから、同人には前記注意義務を怠つた過失があつたというべきである。
(三)本件事故当時訴外村越が被告会社に自動車運転手として雇傭されていたことは、当事者間に争いがない。
(四)〔証拠略〕によれば、被告車は、被告石川の所有に属するものである(右事実は当事者間に争いがない)が、被告石川において、被告会社の業務活動に使用するためこれを購入したもので、購入後被告会社の業務活動にしばしば利用されていたこと、本件事故当日、訴外村越は、被告会社事務所から被告車のキーを持出し、被告会社主催の恒例の従業員及びその家族の慰安会に遅れた者を被告車に乗せ、これを運転して慰安会々場に赴いたこと、この日慰安会は午前中天候がすぐれなかつたので、まず宴会を催し、宴会終了後自由行動として、午後三時か四時頃一同スクールバスに乗つて浜松市に帰る予定となつていたため、右宴会終了後、当時被告会社と取引関係があつて慰安会に招かれた訴外竹内善次郎において被告石川及びその家族に競艇を見物させるため被告車に同被告らを乗せて被告車を運転し共楽荘と競艇場間を一往復したが、その直後村越は被告車に前記宴会に芸妓として招かれた原告らと右竹内を乗せドライブをするため共楽荘から浜名郡新居町汐見坂方面に向け被告車を運転西進中原告ら主張の場所に至り、本件事故を惹起したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定事実によれば、訴外村越は、被告会社の自動車運転手として、従来から被告車を被告会社の業務のため運転していたものと推認され、本件事故を惹起するに至つた右村越の運転行為は被告会社の主たる業務ではないが附随的業務である前記慰安会の目的遂行のための行為として同人の被告会社における附随的職務行為の範囲内に属するものと認められる。従つて、本件事故は、訴外村越において被告会社の事業の執行中に発生したものというべきである。
(五)よつて、被告会社は訴外村越の使用者として民法七一五条により、本件事故により原告らの蒙つた後記損害を賠償すべき責任がある。
二、被告石川の責任
(一)被告車が被告石川の所有に属すること、訴外村越が右被告車に原告らを乗せ、原告ら主張の場所を運転進行中、本件事故が発生したことは当事者間に争いがない。
(二)また被告石川が被告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがなく、被告車が右石川において被告会社の業務活動に使用するために購入したもので、被告会社の業務活動にしばしば利用されていたこと、そして本件事故を惹起するに至つた右村越の運転行為が被告会社における同人の職務行為の範囲内に属すると認められることは、いずれも前記説示のとおりである。
(三)右の事実を綜合すると本件事故を惹起するに至つた被告車の運行は被告石川のためにする運行と認めるべきであるから、被告石川は、被告車を自己のために運行の用に供する者として、自動車損害賠償保障法三条により、原告らに対し、後記損害のうち、物的損害を除き、その余の人的損害につき賠償すべき責任がある。
三、本件事故により原告らの蒙つた損害は次のとおりである。
(一)原告須貝の蒙つた損害
1休業補償費
〔証拠略〕によれば、原告須貝の芸妓としての稼高は、一ケ月平均金五四、四〇〇円であること、そして原告須貝は、本件事故により原告ら主張の傷害を受け右事故当日以後八日間湖西病院に入院し、退院後およそ一ケ月間同病院において通院治療を受け、昭和四一年五月末日まで五〇日間休業したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠がない。そこで原告須貝は、右に認定した一ケ月平均の稼高の五〇日分である金九〇、〇〇〇円(但し、五〇日分合計額である金九〇、六五〇円のうち原告須貝の請求分)の得べかりし利益を失つたことになる。
2衣類浸抜料
〔証拠略〕によれば、原告須貝は本件事故当時に着用していた衣類の浸抜料として金五、〇〇〇円を支出したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そこで、原告須貝は、本件事故により、以上合計金九五、〇〇〇円の損害を蒙つたことになる。しかし前記2衣類浸抜料相当の損害は物的損害であるから被告石川は保有者としてその賠償責任を負わないというべきである。
なお、原告須貝は、通院タクシー代金として金一五、八八〇円を損害額の一部に加算し、その支払を要求しているが、浜松駅から湖西病院前停留所までのバス(遠州鉄道)による所要時間が約一時間であることは当裁判所に顕著な事実であり、しかも原告須貝本人尋問の結果によれば、原告須貝は本件事故により理由一の(一)に認定の傷害を受け、その治療方法として顔面挫傷即ち鼻の負傷部分についてはこの部分を冷し(この部分については、八日間の入院期間中に完治したものと推認される)、右手挫傷(第五中手骨々折)についてはギブスを手に固着したのみであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、右の事実を総合すれば、浜松市佐藤町から湖西病院までタクシーにより通院することは、一般社会常識に照らし不当であり、従つて右通院タクシー代金は本件事故により通常生ずべき損害とはいえない。
(二)原告船山の蒙つた損害
1休業補償費
〔証拠略〕によれば、原告船山の芸妓としての稼高は一ケ月平均金四四、二〇〇円であること、本件事故により、原告船山は昭和四一年五月一杯まで入院治療を受けたが、病状思わしくなく、その後神奈川県川崎市所在の実姉のもとで自宅療養を続けたが、昭和四二年一〇月慶応病院において実施した脳波検査でもなお異状が認められ、同年一一月一一日現在において依然休業を続けていることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定事実によれば、原告船山は、本件事故による負傷により、右事故の翌日である昭和四一年四月一一日から同四二年一一月一一日までの一九ケ月間休業しているのであるから、その一ケ月平均の稼高金四四、二〇〇円の一九ケ月分である金八三九、八〇〇円の得べかりし利益を失つたことになる。
2医療費
〔証拠略〕によれば、原告船山は、本件事故による負傷治療に要した費用として、昭和四一年六月一四日聖隷病院に金一、六六三円、その頃、加藤外科医院に金一、三三五円、同月二九日聖隷病院に金一、〇七五円、同月三〇日加藤外科医院に金七九〇円、その頃同病院に金九五〇円、同年九月一二日慶応大学病院に金五、一四一円、同年一二月二一日同病院に金三、八〇〇円及び同月二三日聖隷病院に金三四、〇八〇円を各支払い、右合計金四八、八三四円を費したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。なお、原告船山は右認定分のほか、昭和四一年九月二日聖隷病院に金一、二八六円、同年一〇月二六日定方病院に金三五、三〇〇円を支払つたとして、右支払分を請求しているが、右事実を証するに足る証拠はない。
3雑費
〔証拠略〕によれば、原告船山は、本件事故による入院中、昭和四一年四月一二日粉石けん金一〇〇円、めんか金一〇〇円、玉子、ジユースなど金三五五円、同月一四日石けん金三〇円、同月一五日桜ちり紙金一八〇円、めんか金一〇〇円、同月一九日三角布金二六〇円、同年五月一日りんご金一〇〇円、同月五日罐詰類金四二〇円、同月七日原告船山が歯医者に行つた往復のタクシー代金六〇〇円、同月一一日罐詰など金三一四円、同年四月一九日から五月六日までの家政婦に対する日当金五、二〇〇円、五月三一日ヨーグルト代金三〇〇円(以上のうち、特に断つてないものは全て購入代金の意)を各支払つたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。右認定の各支払は、いずれも原告船山が本件事故による受傷のため生じた支出と認められるので本件事故により原告船山は、雑費として右合計金八、〇五九円を費したことになる。
なお、原告船山の雑費としての請求分のうち、タクシー料金電話料金(但し、川崎へのものを除く)については、その目的を証するに足る証拠がなく、薬品代、野島食料品商、水野青果店(水野店)各支払分、日用雑貨、日用品食品についてはその具体的内容を証するに足る証拠がなく、いずれも本件事故による原告船山の受傷とのつながりが不明であり、右の支出につき本件事故との因果関係の証明がないことに帰する。またピンチ、スプーン、バケツ、えもんかけの購入代金については右物品がいずれも消耗品ではなく、退院後もその価値がそのまま残存するものであるから、原告船山の損害とはいえず、原告船山、その姉、姉の子供の各食事代、菓子、白子、チリ紙、カミソリの各購入代金については、原告船山及びその姉の各収入、生活程度に照らし、いずれも原告船山が入院しなくても、同人らにおいて普段の日常生活でほぼ同様に支出したであろうと認められるので、右支出と本件事故との間には因果関係がなく、そして原告船山の姉が神奈川県川崎市にいる夫のもとにかけた電話料金、週刊誌、ノート、マジツクペンはいずれも原告船山の入院により通常生ずべき支出とはいえないので、前記認定部分及び前記証明のない部分を除く原告船山の請求分は、その存否について判断するまでもなく失当である。
4附添料
〔証拠略〕によれば、原告船山の姉木村鶴子は、昭和四一年四月一一日から同月一八日までの八日間、湖西病院において、担当医師並びに看護婦の指導のもとに、原告船山の附添看護にあたつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。しかして、附添看護日当は一日金七〇〇円とするのが相当であるから、原告船山は、右木村に対しその八日分である金五、六〇〇円を支払うべきこととなる。
5衣類浸抜料
〔証拠略〕によれば、原告船山は本件事故時に着用していた衣類の浸抜料として金六、七〇〇円支出したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
そこで、原告船山は、本件事故により以上合計金九〇八、九九三円の損害を蒙つたことになる。しかし前記5衣類浸抜料相当の損害は物的損害であるから被告石川は保有者としてその賠償責任を負わないというべきである。
四、次に被告らの抗弁につき検討する。
〔証拠略〕によれば、前認定の宴席において、訴外村越、同竹内ほか数名が車座になつて飲酒中、原告らが酌をしてまわり、或は共に飲酒したこと、右村越が原告らを被告車に乗せ、本件ドライブに向うべく共楽荘を出ようとした際、対向進行して来た魚屋の車両に進路を妨げられ、村越において魚屋に対し車両を後退させ進路を明けるよう要求し争いとなつたこと、原告須貝は、右事実を目撃し、その時の村越の言動から、右村越が相当程度酩酊していたことを察知していたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、右認定事実を総合すると原告須貝においては勿論のこと、原告船山においても、その頃村越が相当酩酊していながら被告車を運転することを充分承知のうえ、同乗していたものと推認される。しかして、飲酒運転は法の禁ずるところであつて、一般に運転上の危険を伴うおそれのあることは世間周知のところであるにかかわらず、原告らがたやすく被告車に同乗したことは、原告らの過失たるを免れない。原告らは、右過失によつて、自ら理由三に認定の損害を生ぜしめる危険を創造したものであるから、その過失は、損害賠償額を算定するうえにこれを斟酌するのが相当である。
五、以上を総合すると、本件事故により原告らに生じた損害として被告会社の賠償すべき額は、原告須貝の分金九五、〇〇〇円、同船山の分金九〇八、九九三円、被告石川の賠償すべき額は原告須貝の分金九〇、〇〇〇円、同船山の分金九〇二、二九三円であるが、原告らの前記過失を考慮し、公平の見地より分析してみるとき、原告らの分担すべきものは各々全額の二分の一とするを相当とし、右比率に従うと、被告会社が負担すべき損害額は、原告須貝に対し金四七、五〇〇円、同船山に対し金四五四、四九六円(円以下切捨)となり、被告石川が負担すべき損害額は原告須貝に対し金四五、〇〇〇円、同船山に対し金四五一、一四六円(円以下切捨)となる。ところで、自動車保険金として原告須貝において金四一、二六五円を、同船山において金三〇〇、〇〇〇円を各受領済であることは当事者間に争いがなく、右原告らの受領金員は、これを被告らが負担すべき損害額から控除すべく、結局、被告会社が支払うべき損害額は原告須貝に対し金六、二三五円、同船山に対し金一五四、四九六円となり、被告石川が支払うべき損害額は、原告須貝に対し金三、七三五円、同船山に対し金一五一、一四六円となる。
六、慰藉料
原告らが、本件事故により理由一の(一)に認定の傷を負い、精神的、肉体的苦痛を蒙つたことは弁論の全趣旨に徴し明らかであり、原告らの負傷の部位、程度、治療の経過更に原告らの前認定の過失など諸般の事情を斟酌する時は、その慰藉料は原告須貝において金五〇、〇〇〇円、同船山において金八〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
七、以上の次第で原告らの本訴請求は、原告須貝において、被告会社に対し金五六、二三五円、被告石川に対し金五三、六三五円及びいずれも各金員に対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四一年一二月一六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告船山において、被告会社に対し金九五四、四九六円被告石川に対し金九五一、一四六円及びいずれも各金員に対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四二年五月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 久利馨 片桐英才 桑原慎司)